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ビジョン・ゼロの視点で交通安全対策を

投稿日:2022年4月23日 更新日:

《ビジョン・ゼロとは》

「ビジョン・ゼロ」は、道路交通システムにおける死亡・重傷事故をゼロにすることを目標とした、交通安全思想・運動です。1970年代にスウェーデンから発祥して、今ではEU各国や他の国々の交通安全政策に取り入れられています。
人命はかけがえのないものであり、クルマの便益と引き換えにしてはならないということ、事故防止のためには個々の人的要因よりも道路交通システムの要因を重視すべきということを理念の根幹に据えています。

《人命は“かけがえのない”もの》

従来の交通安全政策においては「安全と円滑が両立しなければならない」と説かれてきました。しかしビジョン・ゼロは、多大な死傷者を出しながらクルマ交通の便益を得続けるのは間違いだとする考え方です。
たとえば、日本で5年ごとに設定される「交通安全基本計画」では、まず“目標”として交通死者数は2,000 人/年以下、重傷者数を 22,000 人/年以下というように定めます。「以下」と言えばゼロも含むという理屈でしょうが、実際に交通死者数が2,000人であれば「目標達成」です。
しかしビジョン・ゼロは、「死者・重傷者ゼロ」を明確な目標にしています。数値的な目標達成をもってその間の交通政策を正当化するのではなく、死者・重傷者がゼロでない限りは交通政策に何らか問題が存在するのだと、追及し改善を続ける姿勢です。

数値的な目標達成をもってその間の交通政策を正当化することは、つまりはクルマ交通の便益を確保し、その便益の支障となるような交通安全対策を先延ばしすることの“言い訳”になっていないでしょうか? もしそうだとしたら、それはまさにビジョン・ゼロが批判の対象とするものです。
一人一人の命は、本人にも家族にもかけがえのないものです。ましてそれが数千人の死亡数となれば、戦争や大災害のレベルであり、それが年々起きるなどという状態は許容できるものではないはずです。
そんな状態に慣れ、感覚が麻痺しているとしたら? ビジョン・ゼロは“正気”に戻るための指針になりうるのではないでしょうか。

《個々の人的要因よりもシステム要因を重視する》

ビジョン・ゼロでは、「人が間違いを犯すことはありうる(ゼロにはできない)」ことを前提にしています。
交通事故が起きると、ドライバーは運転ミスやクルマ使用の適否を問われることでしょう。それはドライバーの責任として当然のこととして、では、ドライバーが「気を付ける」ことにすれば次の事故は防げるのでしょうか?
ビジョン・ゼロは、ドライバーが「気を付ける」だけでは事故は防げない、事故をなくすにはドライバーがミスを犯しがちな環境を改善すること、また、たとえミスを犯しても重大事態に至らせない方策を講ずることが重要、とする考え方です。

たとえば、クルマが急発進して店舗に衝突、負傷者が出たとする。従来の事故処理では、「アクセルとブレーキのペダルを踏み間違えた」「ドライバーが高齢で正しい操作ができなかった」という原因検討までで、「ペダル操作は間違えないように注意」「高齢者は無理のない運転を心がけて」がせいぜいの事後策でしょう。

たとえば、交差点で右折車と直進車が衝突して、勢いで車両が歩道に突っ込み歩行者が負傷することになったとする。従来の事故処理では、「右折車が無理な右折をした」「直進車は減速できれば良かったかもしれないが、ハンドル操作が精一杯だった」ていどの事実認定で、「直進が優先、右折車は無理することの無いよう注意」「交差点の状況を注意して進行」などが事後策でしょう。

たとえば、交差点で大型車が左折して、横断歩道の歩行者を轢くという事故が起こったとする。従来の事故処理では、「大型車は死角が大きいため、ドライバーの安全確認が不足した」「歩行者は青信号に従って過失はなかった」という事実認定で、「大型車は死角が大きいため、ミラーなどで周囲の様子に十分注意を払い、左折巻き込みを防ぐよう気を付ける」「歩行者は青信号でも、周囲の自動車の動きに注意し、巻き込まれないように気を付ける」などが事後策でしょう。

しかしビジョン・ゼロの視点からは、事故原因検討はドライバー個人のミスにとどまりません。
「ペダルを踏み間違えるような運転操作方式は、そもそも適正なのか?」
「停止状態からいきなり急発進となるのは、車両のパワー制御が適切でないのでは?」
「高齢者が無理をおしてクルマの運転をした事情は?公共交通利用という選択は?」
「交差点は右直分離信号にすべきだったのでは?」
「交差点周辺はより減速させるよう速度規制が必要だったのでは?」
「衝突するような状況では自動ブレーキが作動するようにすべきでは?」
「歩行者の保護設備は十分だったのか?」
「そんな死角だらけの車両が生活道路を通行することが適切なのか?」
「大型車はミラーによる確認だけでは不足ではないか?車体各所にセンサーが必要では?」
「車両が横断歩道を横切る際には、もれなく一時停止することをルール化すべきでは?」
「青信号にしたがって横断歩道で轢かれる?交差点は歩車分離信号を導入するべきでは?」
・・などなど、自動車メーカーや道路管理行政にまで検討が及ぶことでしょう。

「人が間違いを犯すことはありうる」というビジョン・ゼロの視点からすれば、「注意しましょう」との呼びかけに終始することは、交通事故対策としてあまりにも無力です。
交通事故の加害者になる場合が多いクルマ側への「注意しましょう」は当然の義務の喚起だとしても、被害者となる場合が多い歩行者(とくに子ども)に対する「注意しましょう」は、不当な“自己責任の押し付け”ではありませんか?

《ビジョン・ゼロを推進》

クルマ社会を問い直す会は、“人”優先の立場からビジョン・ゼロの推進を求めます。
またビジョン・ゼロは、SDGsのような「持続可能な行動」にも大きな関連を持つことに言及したいと思います。
ぜひ多くの個人・団体がビジョン・ゼロに賛同・連帯されるよう訴えます。

以下に、ビジョン・ゼロに賛同する団体のWebページをご紹介します。

■ビジョン・ゼロの挑戦 Sustainable for Freedom - by Volvo


ビジョン・ゼロ発祥といわれるスウェーデンの、自動車メーカーVolvoによるWebページです。
自動車メーカーのWebページですが、スウェーデン政府の広報を代行している面もあると見て、ご紹介します。
「スウェーデンが生み出したビジョン・ゼロの取り組みが、この世界の状況を持続可能でより良い方向へ導いていくことは想像に難くありません。」

■オーストラリアTACの動画 There's no one someone won't miss


オーストラリアTAC(Transport Accident Commission Victoria)の動画です。
There's no one someone won't miss - Man on the street
交通事故で失ってよい人など誰一人もいない
聞き手)So last year,213 people died on our roads.
  つまり、昨年は213人が交通事故で亡くなっているのです。
 What do you think would be a more acceptable number?
  もっとも受け入れられる数字は何人だと思いますか?
男性)Um, acceptable? 70, maybe. Probably 70.
  ええと、許容範囲? 70人かな。70人くらい。
聞き手)Can you send 70 ?
  70人くらいなら“仕方ない”と思えますか?
 Actually this is what 70 People looks like.
  実は「70人」はこんな感じなんです。
<男性の家族など70人の人々が登場>
男性)That's my family.
  僕の家族だ。
聞き手)So now what do you think would be a acceptable number ?
  では、あらためて許容範囲の人数はどのくらいだと思いますか?
男性)Zero. Zero.
  ゼロだ。 ゼロです。
<テロップにて>
 Zero. The only number we should accept.
  「ゼロ」 我々が受け入れるべき唯一の数字
 TOEARDS ZERO - TAC

■KENTOのビジョン 


交通事故遺族が立ち上げ、交通事故被害者の支援や交通事故撲滅の啓発事業を行なっているNPO法人KENTOのWebページです。
日本の交通事故にまつわる状況を解説し、ビジョン・ゼロに沿ったものとして「5つの提案」を掲げています。
1 徹底した事故捜査(科学捜査)と早期の情報開示
2 死亡・重傷事故については正式起訴して裁判を行うこと
3 交通犯罪の厳罰化・職業運転手と一般運転手とでの罰則の区分け
4 運転者教育体制の強化
5 最先端技術の早期実用化

■なるほど交通安全 ビジョン・ゼロ(JA共済)


交通安全啓発に力を入れている、JA共済のWebページです。
「(昨年の事故死者は)『過去最小』ということは評価できるかもしれません。ただ、年間に3,694人が、亡くなっているという事実を考えると『過去最小だから良かった』ということにはなりません。
日本も交通事故に関する先進国を見習い、強く『ゼロ』にすることを目指していくべきです。
日本もビジョン・ゼロを打ち出し、その概念を共有したほうが交通事故撲滅に一歩でも近くはずです。」

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