2024年4月20日に開催された講演の内容です。
1. 子どもという「指標種」
まずご紹介したいのは「子どもは指標種」という考え方です。「指標種」とは、生物種のなかでも限定された環境でしか生きられないもの、その種の存在が環境の豊かさを示すものを指します。南米コロンビアの首都ボゴタ(公共交通と自転車の利用促進を強力で有名)の元市長、エンリケ・ペニャロサ氏がこう語っています。
“子どもたちは、いわば指標種なのです。子どもたちにとってよいまちをつくれたら、そこはあらゆる人にとってよいまちになっているでしょう”
2. 自転車は「歩行者プラス」
自転車をどうとらえるべきか、英語圏における自転車とまちづくりについての必携図書2冊から、鍵となる言葉を引用したいと思います。
“自転車は実に深くオランダの生活文化と交通に溶け込んでいて、それが100年以上も続いています。ヘルメットや特別な服は要りません。徒歩のスピードが上がっただけなのです。「歩行者プラス」と呼んでもよいかもしれません。”
――ロッテルダムの建築史家 ミッシェル・プロヴォースト
“自転車に乗った人々は、時計塔に目をやり、ウィンドウショッピングを楽しみ、友達に手を振り、あるいは足を止めてお喋りをする。歩くのと同じで、少し速いだけだ。”
――コペンハーゲナイズ創設者 マイケル・コルヴィル=アンダーセンによる記述の要約
© Kristoffer Trolle
© Franz-Michael S. Mellbin
コペンハーゲンで自転車に乗る人々のこうした写真(出典)を見ていると、「まちをどう体験するか」という観点からは、歩くことと自転車に乗ることはほとんど等価だということが実感できます。ですから、人のためのまちを作ろうとするなら、自転車を外して考えるわけにはいきません。そのことが、世界のトップランナーたるオランダやコペンハーゲンの例からよく伝わってきます。
日本で自転車を語るときには「車の仲間」というフレーミングが長い間使われてきたわけですが、大きな問題がふたつあります。ひとつは切り分け方が大雑把すぎること。まるで「バターナイフはナイフの仲間」と言われているみたいです。もうひとつは、道具の話だけになっていて、人の存在が消されていることです。
では自転車利用をどう位置づけるかというと、「アクティブ交通」のひとつとの認識が世界共通になっています。
アクティブ交通(active travel)とは、生身かつ人力が主となる移動手段を包括的する言葉です。
Original Image (C) Dublin City Council
これはアイルランドの首都ダブリンの市議会が作った、交通の優先度のこれまでとこれからを表す図です。図の上にあるものほど優先されていることを示していて、隅に追いやられていたアクティブ交通を、これからは最優先にしようという意図が明確です。アクティブ交通の多様性がぐっと増している点にも要注目です。
[写真出典]
世界に学ぶ自転車都市のつくりかた: 人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン 単行本 2023/11/8宮田 浩介 (著, 編集), 早川 洋平 (著), 南村 多津恵 (著), 小畑 和香子 (著)