モータリゼーションがもたらす諸問題に関する質問状を 自動車メーカーに提出 ~モーターショーに向けて~
要点
- 自動車メーカーは、自動車の快適さや楽しさを強調します。
- 一方で、様々な加害性については、あまり触れません。私たちは、そこに疑問・不満を持っています。
- 交通事故などの被害を少なくしていくためには、メーカーの努力が不可欠です。
- 私たちは、モーターショーが開催される機会に合わせ、自動車メーカー12社に対して、質問状を提出しました。
- 自動車の加害性を整理し、それぞれに対してのメーカーの姿勢を質問しています。
- 各社へ、10月20日に郵送しました。
- 各社の回答が得られた後、再度報告をまとめる予定です。
モータリゼーションがもたらす諸問題に関する質問状
モータリゼーションがもたらす諸問題に関する質問状
株式会社トヨタ自動車 御中 社長 張 富士夫 殿
1999年10月20日
クルマ社会を問い直す会
私たち「クルマ社会を問い直す会」は、過剰なモータリゼーションが引き起こす、さまざまな問題の改善をめざして活動する市民グループです(代表、杉田聡帯広畜産大学教授、会員約350人)。
来たる22日から、「モーターショー」が開催されます。今年は、燃費効率のよい車種およびハイブリッド車が、ショーの目玉となると報道されています。自動車メーカーが、大気に配慮した車種を製造することは、それ自体としては望ましいことです。しかし、そもそも自動車(以下「自動車」は「クルマ」と同様に二輪を含む)が、人口の4分の3に達するほどに増やされた結果、単に大気汚染が深刻になったばかりか、他にも多様な問題が噴出しています。
私たちは、大自動車メーカーである貴社が、モータリゼーションがもたらす諸問題についていかなる見識を有し、社会的な責任をいかに自覚しているかについて伺いたく、次の7項目について質問をさせていただきます。
■要請事項
- 膨大な自動車事故死傷者について
- 交通安全教育のあり方について
- 安全な街づくりについて
- 大気汚染について
- 騒音・振動について
- クルマ広告のあり方について
- 公共交通機関と老人の状況について
お忙しいとは存じますが、10月30日(土)までに、ご回答をお寄せいただけますよう、お願いいたします。
なお本状は、国内の主要自動車メーカー12社に送付しておりますが、同時に朝日・毎日・読売新聞をはじめとする全国紙、各ブロック・地方紙、テレビ局、通信社(外国のそれを含む)に、また関係官庁である通産・運輸・建設省、警察・総務庁にも、送付しております。
■質問項目
1.膨大な自動車事故死傷者について
日本には今、おびただしい量のクルマが走っています。そのため、住宅地はもちろん生活道路、小路、裏道までクルマがあふれて、子どもたちは道で遊ぶことはおろか、安全に歩くことさえ困難になっています。子どもだけでも毎年500人近くがクルマによって命を奪われ、7万人もが身に損傷を負わされています。お年寄りは3000人が命を奪われ、負傷者も3万人に及んでいます。そして他の年齢層の大人の死傷者も、それぞれ2000人、10万人におよびます(いずれも歩行中もしくは自転車利用中、死者は厚生省統計・負傷者は警察庁統計による)。自動車が、レールをもたない点で不安定であり、一般人が仕事等のあいまにかたてまに、かつ日常の生活空間にクルマを走らせている以上、この数字は、今後とも大枠で変えることは不可能です。
そうした事態が生じているという事実、今度も同じような規模でクルマが人の命を奪い続けるという事実を、自動車メーカーとして貴社はいかに考えますか。
2.「交通安全教育」のあり方について
貴社をはじめとする自動車メーカーが、たとえば「交通安全教育」普及のために一定の努力をしていることを知っています。しかし今日の「交通安全教育」は普通、結局はクルマが子どもたちやお年寄りのまわりを野放図に走り回り、彼らを危険にさらすという事実を、完全に不問に付すところに成り立っています。くわえてそれは、子どもやお年寄りを現在の交通環境に適応させることは、心理学的にみても困難であるという事実を、無視しています。
とするなら、貴社として、逆に交通環境の方を子どもやお年寄りにあわせることに努力をする用意はないでしょうか。つまり、子どもやお年寄りが安心して歩き、生活できるような街づくりと、子どもやお年寄りでも十分に対応できるような自動車走行のルール作りと、クルマの運転は子どもやお年寄りを危険にさらさないことを前提にして許されるべきものであることをドライバーに伝える新たな交通安全教育の組織化に、努力する用意はないでしょうか。
3.安全な街づくりについて
クルマが増えすぎた結果もたらされた生活環境の悪化を改善するためには、住宅地はあくまで歩行者優先の地区とし(例えばオダンダの「ボンエルフ」やドイツの「ゾーン30」のような)、ハンプの設置を大規模に推進し、また幹線・準幹線的な道路には必ず歩道をつけるべきと思われます。しかし、真に歩行者優先がつらぬかれた住宅地はなく、ハンプも特別な地区以外にはほとんど見られません。また建設省が「歩道設置必要延長」とみなす交通量の多い道路にさえ、実に50%以上は歩道がありません。
私たちは、貴社をはじめとする自動車メーカーに対して、せめて自社の製品が市場を通じて社会に出回ったときに生ずる各種の影響をミニマムにする努力を、期待しています。みずからが生み出した製品が生活環境を悪化させるような事態を防ぐことは、企業にとって基本的な社会的責任であると考えますが、貴社は、その責任をはたすために努力をする用意がありますか。住宅地を完全に歩行者優先の方向へ改善し、各地にハンプを設け、幹線・準幹線的な道路に歩道を設置するために必要な事業を、貴社として計画する用意はありますか。
4.大気汚染について
いくつもの自動車メーカーが、ハイブリッドカーを製造しています。しかし、すでにおびただしく出回るガソリン車、ジーゼル車による大気汚染は日々に進んでいます。これを改善するために、貴社はどのような努力をする用意がありますか。単にハイブリッドカーを作り続けるというのではなく、今日の大気汚染を改善するのに、速効性のあるどのような努力を期待してよいでしょうか。
5.騒音・振動について
ハイブリッドカーが作られても、子どもやお年寄りをはじめとする歩行者には、クルマが依然として危険であるという点で何ら変わりがないのと同様に、クルマがもたらす騒音・振動についても問題は解決しません。今日、市町村道レベルの道路でさえ、沿道添いの住民は、四六時中、騒音と振動にさらされています。自動車メーカーとして貴社は、みずからの製品によってこうした事態が生じている事実を、いかに考えますか。これを改善するために、速効性のあるいかなる努力をする用意がありますか。また、状況改善のために、いかなる見通しを持っていますか。
6.クルマ広告のあり方について
20代の若者では、自動車事故が全死亡原因の半分を占めています。日々に流される自動車のコマーシャル・広告で、メーカーはひたすらクルマの魅力を宣伝しつづけていますが、他方で、自動車の機械システム(レールを欠いていること)、および自動車利用の社会システム(列車のような特別な空間をではなく子どもやお年寄りも歩く日常的な空間を走ることが許されていること)からして、自動車事故は避けられないという事実にかかわる情報は、まったく提供されません。
貴社として、今後各種メディアでのコマーシャル・広告に、歩行者にとってはもちろん運転者にとっても、自動車は危険な乗り物である点を、はっきり明示していただくことを期待しますが、そうした用意がありますか。タバコの例に見られるように、「クルマ利用の結果、死傷することがあいます」、「クルマ利用の結果、歩行者を死傷させることがあります」、「歩行者のそばを走ると、相手を危険にさらします」といったコピーを、宣伝に盛りこむ用意がありますか。
7.公共交通機関と老人の状況について
マイカーが普及すればするほど、都市は拡大すると同時に公共交通は衰退します。また都市は、マイカー利用を前提にして変貌しつづけます。顕著なモータリゼーションが始まってからすでに40年、いまや日本中津々浦々で、マイカーを持たない、マイカーに乗れない・乗らない人々が、窮地に陥っています。ことにお年寄りの状況は深刻です。日用の買物一つするにも、モータリゼーションのために何倍にも延ばされた距離を、しかもモータリゼーションのために衰退させられた公共交通を満足に利用できずに、歩いて越えなければならなくなっています。
マイカーを製造しつづけることで、そうした困難な状況を招いた責任を、貴社はいかに考えますか。この状況を変えるために、どのような努力をする用意がありますか。各地の公共交通を復活・維持・強化するための惜しみない協力と、お年寄り・障害者にやさしい小型コミュニティバスの考案・生産を私たちは期待していますが、それに応える用意がありますか。
(以上)
続報
ホンダと日野自動車から回答を得ました。定期刊行冊子『クルマ社会を問い直す』にて報告する予定です。