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絶句の東京外環道路計画

投稿日:2009年4月23日 更新日:

足立礼子

 昨年春に三鷹市に越してきて、遅まきながら少しずつ東京外環道路計画の全体像が見えてきましたが、その無謀さに絶句の思いです。もう事業化寸前のところに来ているのですが、いろいろな方面(行政・議会や議員報告・反対運動団体など)の情報をもとに、問題点を整理してみました。

まず、概要から

 外環道は、東京都心の渋滞解消などを目的に、都心から約15km圏で放射方向の高速道をリング状に連結しようという道路計画です。一部は開通していますが、うち東京圏の事業計画が現在進められようとしています。
 この東京外環道路計画は、練馬区の関越道から、杉並区、武蔵野市、三鷹市、調布市、狛江市を通って世田谷区の東名高速道まで、7市区にまたがって延長16kmの道路を南北方向に通すというものです。もう40年以上前(1966年)に高架方式案が計画されたのですが、地元自治体と住民の猛反対にあい、70年に建設大臣が凍結宣言をしました。
 ところが、1999年から地下方式案を掲げた計画が再浮上したのです。その後、協議会などが設置され、環境影響評価書が出され、2007年4月に「大深度地下トンネル方式」にするという都市計画変更が決定しました。現在は、事業化決定される手前(目前)の状況にあります。国は2020年完成を見込んで、進めようとしています。

大深度地下トンネルって・・・?

 これは、地下40m以深(40~70m)に、直径約16m(5階建てマンションの高さと同じ)のトンネル道路を2本掘るというもの。この深さ(大深度)は、下水道管や通常の地下鉄の深度の2~3倍下になるようです。今まで前例がほとんどなく、地下水脈切断、地下水汚染・枯渇、地盤沈下・隆起などの不安が指摘されています。国は、大深度は地盤が安定しているので環境への影響は少ないとしていますが、予測の域を出ていません。
 説明会の資料でも、「地下水への影響は小さいと考えられる、地盤沈下の影響も小さいと考えられる、シールド工法は地下水に及ぼす影響が小さい」などの曖昧表記が目立ちます。
 三鷹市は飲み水の6割を地下水に頼っており、平常時はもとより、地震などの非常時の水供給なども懸念されます。計画地には、三宝寺池や善福寺池(川)、玉川上水、野川など、多摩地域の人々の暮らしや文化と密接につながっている水源が多くありますが、それらの水脈分断や農業への影響なども心配されています。
 それに、もし懸念される大地震が起きたら、仮に深層地盤内のトンネル自体は無事であったとしても、地上の地盤はどうなるのか、ジャンクションやインターではトンネルから出ようとする車と地上部の車と崩壊した瓦礫とで大地獄図が生じるのではないか・・・等の心配もわいてきます。
 工費は1兆6千億円と予測されています。1mにつき1億円もかかるのです。また、この建設に伴う立ち退き建物は、千余棟といわれています。

しかも、地上部にも道路計画が

 話は、地下にトンネルを通すだけではありません。その地上部の5か所には大規模なジャンクション・インターを建設予定です。
 さらに、都はこの本線の地上部、練馬から三鷹まで9kmの区間に、幅40m(青梅街道の2倍)の大幹線道路、通称「外環ノ2」を建設したい考えがあります。外環道路の住民説明会ではこの外環ノ2についてはほとんど触れられず、石原都知事も「外環道は地下方式だから」を強調して住民に迷惑はかからないような発言をしていたらしいのですが、その都知事が事業化を望んでいることがわかり、住民から強い批判が上がっています。都は明確にしていませんが、工費は6千億円余、立ち退き建物は3千棟余との推測もあります。(2月末時点では、都は「外環ノ2は住民の合意なくしては進めない」と言っているようですが、その言葉の裏には、ともかく今は本線を事業化してしまいたい、という意図があるように思います。)
 それだけにとどまらず、本線や外環ノ2から各方面への連絡路として、各地に新たな道路の計画がいくつも予定されています。
 つまり、一見地下にだけ道路を通す(から地上への影響はない)ような印象を持たせつつ、じつはすでに道路だらけの人口密集地の地上にも、大規模な道路網や結節点を作る計画だということです。地下水や地盤への影響だけでなく、交通事故の増加、大気環境悪化、地域分断、立ち退き等々、むろん経費も総合して考えれば、計り知れない人命・環境・財政破壊事業といえると思います。国は外環道ができると渋滞がなくなって排ガスも交通事故も減ると言っていますが、都心の渋滞緩和効果は1.5%にすぎないとの指摘もあります。

換気塔+地上道からのダブル排ガス汚染

 本線のトンネル内を走る車の排ガスを吐き出す換気塔は、関越道と結ぶ大泉ジャンクション〈高さ30m)、青梅街道インター(同20m)、中央道と結ぶ中央ジャンクション(三鷹市北野)(同15m・ここだけ2か所)、東名道と結ぶ東名ジャンクション(同30m)の計5か所に設置される予定です。 換気塔には電気集塵機などが設置され、浮遊粒子状物質(SPM)、二酸化窒素(NO2)などをある程度除去できるとしていますが、汚染物質をすべて除去できるはずはなく、ぜん息の大きな要因とされるのにまだ環境基準が設定されていない微小粒子状物質「PM2.5」についても不明です(PM2.5については会報51号の、弁護士・西村隆雄さんの講演会報告をごらんください)。絶えず吐き出される汚染物質は、換気塔周辺だけでなく広範囲に広がることは自明の理です。
 環境影響評価書では、NO2などは環境基準を下回ると予測していますが、大気汚染測定運動東京連絡会会長の藤田敏夫さんは、予測値の計算モデルなどに問題があるとしています。藤田さんによると、東京港海底トンネル換気塔から排出される窒素酸化物(NOX)の濃度は5~7ppm、環境基準の上限値0・06ppmの100倍、とのことです。 しかも、外環ノ2やその他連絡道路ができれば地上の交通量も増えます。10余年にわたる工事で生じる汚染物質も考えれば、大気の悪化は必至。 練馬、三鷹をはじめ該当地域はすでに排ガス汚染が進んでいて小・中学生のぜん息罹患率も高いのですが、それに拍車をかけることになります。
 また、二酸化炭素(CO2)の放出で地球温暖化も加速します。藤田さんらは「外環道は1日10万台を超える自動車が通過すると考えられ、排出されるCO2は年間8万4千t」と指摘した意見書を出しているそうです。地上道の交通、建設等で放出される量も膨大であり、ヒートアイランド化も進むでしょう。

PI方式の欺瞞があらわに

 この外環道計画では、PI〈パブリック・インボルブメント/市民参加)方式をうたう協議会や検討会が各地域で開かれてきました。ところが、市民参加とは名ばかりで、実態は国・都側に都合よい意見誘導を行って反対意見を封じるものだったと、参加した市民から怒りの声が噴出しました。行政の説明後に質問時間を設けず、少数グループでのワークショップ方式にして、テーマも進行も反対意見を明確に出しにくいように進める、等々。大泉ジャンクション周辺地域の検討会では、議事進行役が市民の意見をさえぎって一方的に行政に有利に進行させたそうです。規約に定められた、検討会に先立つ住民参加の運営会議も設置されなかったとのこと。この議事進行をした(財)計量計画研究所は、国土交通省の天下り団体で、道路特定財源の補助金を12億円近く受けており、外環道のPI実施業務等で随意契約4億3千万円、1回の検討会につき1700万円を受けている、との実態も住民団体から報告されています。

各地の活動について

 各地域で、住民の反対運動が起きています。2月に各地域の団体が集う会がありましたが、白髪交じりの中高年が大半なのが印象的でした。ある女性が「行政の人に『あなた方のように反対の旗を振るのは特別なごく一部の人。大半の市民は反対などしていない』、と言われた」と発言していましたが、みなさん特別でもなんでもないフツーの常識的市民です。そのフツーの人々が、子や孫の世代への影響を真剣に心配して怒りをあらわにしていました。これ以上の道路はもう要らない、事業の白紙撤回を、が一致した意見と感じました。クルマ社会への批判、反省の声も多く聞かれます。
 三鷹市では2007年に外環道路住民投票請求の署名を必要数の4倍近い署名数で市議会に提出しましたが、否決されています。その後「市民による外環道路問題連絡会・三鷹」という組織ができ、事業中止を求める10万人署名を行っています。この会報が出るころまで集めているかどうかわかりませんが、インターネットでホームページをご覧いただき、もし実施中ならぜひご協力をお願いいたします。

*情報に間違いなどがありましたら、ご指摘ください。

(会報『クルマ社会を問い直す』 第55号(2009年4月))

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