「子どもが幸せに育つまち:サドルの上から見た交通」(2024年4月20日) の講演に続いて行われた対談会のうち、テーマ3 「自転車 × 幸福で豊かな生活」の内容です。
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A. 賃労働の価値が高いとされる社会
宮田さん 交通システムが通勤ルートに最適化されているというのは、言い換えれば賃労働への最適化です。その周辺にある(無償の)ケア労働を考慮できていない。
そのような状況に対し、ドイツなどでは市民が声を上げることがごく一般的ですが、日本でなぜそれができないかというと、労働時間が長すぎるのが大きな要因といわれています。社会構造を変えるための運動をしたいが、そのための時間が社会構造的にない、八方ふさがりになってしまっている。
B.「公共」と「共生」について
岡田さん もうひとつ、「公共」についても触れておきます。私はもともと電車やバスに乗るのは大好きだったのですが、子どもを連れて乗りたいとはまったく思わなくなってしまったんですね。なぜかというと、公共の場では他人に迷惑をかけてはいけませんという観念がものすごく強いからです。子どもを座席にまっすぐ座らせないといけないだとか、お菓子を食べさせていたらどう思われるだろうとか、他人の視線が圧力になって精神的に疲弊してしまうんです。
宮田さん 世界各国の都市の交通分担率をお見せしたときに、東京では公共交通にかなりの負担がかかっていると指摘しました。過密な環境の公共交通では、岡田さんがおっしゃるような他人の目線も理由になって、幸せな交通にはなりにくいでしょうね。
今回参加してくださったみなさんは、車ばかり使っている人がどうすれば使わないようになるかを考えておられると思いますが、お前そんなんじゃダメだよ、という言い方では、さきほどの「叱って言い聞かせる」話と同じで、相手は変わってくれないんですよね。より戦略的に、相手がなぜそうしているのか、そうせずにすむための未来を一緒に作っていくためにはどうやればいいのか、そういう会話の組み立てができるようになってほしいと思います。
公共空間に関して最後にもうひとつご紹介したいのが、「日本で最も自殺の少ない町」 の話です。徳島県の海沿いの漁師町なのですが、家が密集していて車が入れない、そういう路地のあちこちにベンチがあって、ちょっとした話が気軽にできるようになっているそうです。他の町についても調査したところ、同調圧力の強いところは自殺率が高く、一方でこうした短時間のゆるいコミュニケーションがよい効果をもたらしていることがわかったそうです。子どもが幸せに暮らせるまちを作る上での大事なヒントになるのではないかと思います。
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テーマ3 「自転車×幸福で豊かな生活」